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故郷へ錦・米朝艶笑噺(四)

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故郷へ錦・米朝艶笑噺(四)

【主な登場人物】

 母  息子作次郎  伯父

【事の成り行き】
 この噺、聞き進んでいってどのへんが落語なのか? 

シュールなリアリスティック映画にも似た展開に心臓がバコバコします。

確かに母は♀、息子は♂に違いありません。

 新作落語にもこれほどのパワーがあるなら、

どんな芸能より将来有望なのですが、新作艶笑噺、

どなたかお作りになりませんでしょうか(2001/04/01)。

             * * * * *

 このドライな世の中にも恋患いといぅのがやっぱりありますが、

この恋患いの歴史も古い。

年頃の娘はんがこぉ、思い悩んでいるといぅと親のほぉが気が揉めますなぁ。

 「あんた、誰か思い詰めてんのんと違うのん? 

  はっきり言ぃなはれ、相手誰? この頃よぉ家(うち)来はる田中はんか?」

「ん……」

「違うのん?中西っさん? ウジウジせんとはっきり言ぃ、望月さん? 誰やねん?」

 「ん~ん、誰でもえぇ」

 「誰でもえぇ」てな恋患いがありまっさかいなぁ。

■何やねん?

●あぁ兄さん、お忙しぃのにすんまへん

■いや、今、使いが来てびっくりしたんや。

 また、作ぼんに変でも起きたんやないか思て。

  病状はどんな具合や?

●はぁ、作次郎はまぁ、相変わらずといぅたら相変わらずでんねんけどな、

  えぇことはおまへんねけど。

  兄さんに来てもろたといぅのは、実は今日来はったお医者はんのおっしゃるには

  「この子の病は薬浴びるほど飲んでも治らん。

  何かこぉ思い詰めてることがあって病気になってんねや。

  その思い事といぅのを叶えてやるか、

 まぁしゃべらすだけでも心のつかえが降りるんやないか」

  と、こぉ言ぃはるのんどす。

●せやけどなぁ、なんかわたしには顔合わすのんも避けてるよぉなし、また、

  親にはかえって言ぃにくいこともある。

  男親がおったらえぇねんやろけど、わて一人だっしゃろ。

  まぁ男同士で、兄さんとは伯父・甥の間柄やし、

 どんなことを思い詰めてるのか、

 聞き出してやってもらえんかと思いましてな。

■そぉか……、よしよし、いや、わしほんならこれからちょっと行ってくる。

  ん~、心配なこっちゃ、なぁ一粒種やさかい。

  まぁおれに任しとけ任しとけ、男同士また話が早いわい。

■作ぼん、作次郎……

▲あッ、おっさんお越しやす

■しっかりしぃなおい、何といぅ情けない顔してんねん。

  お前と俺と血の繋がった、たった一人の甥ちゅなお前しかないねん。

  お母んにしてみりゃ一粒種の息子やろ。

■実はなぁ、今日来はった先生、名医といぅ評判の高いお医者はんや

 「お前の病気は何か心に思い詰めてることがあって患ろぉてんねやと。

 薬浴びるほど飲んでもあかん、

  その思い事を叶えてやらねば」

  といぅことなんやけど、お前、そんなことあんのんか?

▲さよか……、さすがはご名医でんなぁ。

   実はそのとぉりでおます

■ほな、その思い事といぅのをわしに聞かしてみ、なぁ、言ぅとぉくれ

▲言ぅて叶えられるよぉな望みなら、すぐにでもお話しいたしますけど、

   こればっかりはもぉ、口に出して言ぅのも恐ろしぃよぉなこと……。

   わて、黙ってこのまま死にますよってにな、おっさん、

   どぉかわたしが死んだあとはお母はんをよろしゅ~お願いいたします。

■そんな心細いこと言ぅたらどんならんがな、
 (どんならん=仕方がない。どうにもならない。しょうがない。どうしようもない。どうにもならぬ。ドウモナラヌ→ドモナラン→ドムナラン→ドンナラン。)

  えッ、何を言ぅねやいな、とにかく言ぅてみ、

  ホンにこらどぉしよぉもないと思たら、

 まぁこっちも諦めがつくがな。

  何を考えてんねや分からんで死なれたら、こっちゃ心残りや。

   え? どんなことや? わいにだけ言ぅてぇな。

  なるほどこれは無理な願いやと思たら、

  わしゃもぉ誰にも言わん。

  母親にも言わん。

■なッ、せやけど、何とかしよぉのあるもんやったら、また考えよやないかいな

▲おおきに、そないまで言ぅてくれはんねやったら、ほなおっさん、

   あんさんにだけ聞ぃてもらいます。

   どぉせとても叶えられそぉもない話で、

  口に出すのも恐ろしぃこったんねんけど……

▲実はなぁ……、恋患いでんねん

■恥ずかしがらいでもえぇがなおい、オボコイなぁ。

 (オボコイ=無邪気な・ウブな・初心な。オボコ(処女)が形容詞化したもの。)

 まぁ無理もないはなぁ、

 まだ前髪つけてんねや。

 (前髪=月代を剃らない、元服前の子どもの髪型。江戸時代にはおおむね12歳で前髪を下ろして大人の仲間入りをした。)

 せやけど、もぉじき前髪を落とそといぅ歳や、

 恋患いぐらいしたって当たり前や。

■あぁ、恥ずかしぃこと何もない、布団から顔出し。

 お前ぐらいの歳にはわしゃもぉ、女の味知ってたんやがな。

 遠慮せんと言ぃ、男が女に惚れるんや、何恥ずかしぃことがあるかい。

 相手は誰や? 相手は?

■分かった、向かいにあるがな。

 向かいのお照ちゃんやろ。

 別嬪になりよったがな、えぇ娘(むすめ)になって……

▲違いまんねん

■違う? あぁほなら、

 お前のあの稽古友達の何とかいぅたなぁ、

 お時ちゃんか? 

 あの娘(こ)ぉか?

▲違いまんねん

■ほな、どこの娘(むすめ)?

▲娘はんと違いまんねん。

■ほぉ~、ほな芸妓はんかなんか?

▲違いまんねん。この町内の……

■この町内の? 誰やねん?

▲後家はんでんねん……

■変わってるなぁおい、前髪つけてるといぅ歳で後家はんに惚れたん……? 

 んッ、皆まで言ぃな、この町内で後家はんときたらお前、薬屋の後家はん、

 別嬪やあれはなぁ、わいもとぉから惚れてんねや。

 あれなら大概の男はいっぺんまいるで。

▲違いまんねん

■薬屋と違うのん? 

 ほぉ~、ほな紙屋の後家はんか、あらちょっと歳いてよる、

 そのかわりまぁ若こ見えるさかいなぁ、十(とぉ)は若こ見えるで

▲違いまんねん。

■紙屋でもないのん? 

 待ちや、この町内はそぉ後家はんぎょ~さんおらんねやがなぁ……、

 ん~ん、糊屋のお婆ん、あら七十二や、違うやろ。

 とするとあとは……、

 後家はんちゅうたら、もぉお前のお母んぐらいしかないで。

▲実は……、そぉでんねん

■えぇ~ッ、いやお前、母親に惚れた?

 あ、あれなぁ、義理の仲と違うんやで。

 お前、あのお母んから生まれたんやで……。

 おい、前髪つけてる歳で、また何でそんな妙なことを考え……

▲せやさかい、これはとても人には言えん話やと

■言えん話ちゅたかて、お母んに死ぬほど惚れるちゅうには、

 何かわけがあんねやろ

▲いえ、わけといぅておまへん。けど、こないだの夏な、踊りがおましたやろ、町内で。

  んでわて、若い連中の世話方になったもんやさかい、毎晩遅そぉ帰ってましたんや。

  ある晩もだいぶ遅そなって帰って来たら、お母はん先、

  わたい待ってるあいだに寝てしまいましたんやろなぁ……

▲蚊帳が吊ってあって、枕もとに有明の行灯(あんどん)。

  ボ~ッとこぉ灯が流れてます。

  暑いもんでっさかいお母はん、胸元はだけて、裾を乱して、

  水色の蹴出(けだし)から白い足がスッと出て、蚊帳越しに……、

  こんなん見たらおっさん、あんたどんな気がする?

■もぉ、そんな嫌らしぃこと言ぃないなおい「どんな気がする」て、そら、母親やないかいな

▲まぁその時わて、カ~ッとなって口の中カラカラで、頭ガンガ~ンと鳴って、

  二階上がって布団被ってしまいましてんけど、寝られしまへん。

▲こんなこと人にも言えず思い詰めて、

  寝ててももぉ頭ん中にはあのときのあの蚊帳ん中のあれが、

  絵ぇのよぉに焼き付いてしもて、もぉそれからズ~ッと頭離れまへんねん。

▲こんな因果なことして、ホンマに畜生みたいな話でっさかいな、

  もぉ誰にも言わんと死んでしまおと思てましたんやけど

  「何が何や分からずに死んだら、かえって心残りや」と言われます。

  どぉぞおっさん、あんさんの胸にだけこれ隠して、

  どぉぞお母はんにも誰にもおっしゃらんよぉに。

  わたし死にますよってに、あとは……

■ちょ、ちょっと待ち、ちょっと待ち。えらいことになってきたなぁおい、

  汗かかしやがんねんこいつ……。

  あのなぁ、せやけどお前、これ困ったなぁ、

  いや、ちょっと待ち。

  死ぬのはお前、いつでも死ねんねん、そぉ死に急がいでもえぇ

▲いえ、もぉわて、あしたにでも

■あしたてなこと言ぃな、ちょっと待ち。

  そぉ慌てて死ないでもえぇねや、俺、何とか考えてみる、考えてみる。

■お前が死んだら、あのお母ん生きてへんでおい。

 わいの身内みな死んでまうことになるやないか。

 とにかく、ちょっと気を確かに持って死なんと待ってて、

 俺がもぉいっぺん帰って来るまでお前、

 黙って短気な心起こしたらあかんで、

 えぇか、ちょっと待ってぇ……

■あぁ、何をしよるやら……、おい、ちょっと

●兄さん、えらいすんまへん。

 どんな具合? あの子言ぃましたか?

■えらいこと言ぃよった。とにかくお前、落ち着いて聞きや。

 あのな、あいつ恋患いやねん

●やっぱりさよか。いつまでも子どもや子どもやと思てたわてが……、

 いやもぉそれぐらいのことあってもおかしない歳だすけどな。

 で、その相手は? ひょっとしたらお向かいの娘はん?

■さぁ、お向かいからどこから聞ぃたんやけど「相手は娘はんと違う」ちゅうねん

●ほな、なんかこぉ芸者はんか何か?

■さぁ、それも聞ぃてんけど、それでもないねん、この町内の人やねん。

 それも変わってるであいつ、後家はんやて

●後家はん? まぁ、子どものくせに……、ほんだらあの薬屋の?

■さぁ、誰かてそない思うねん、きっちり一緒やがな、薬屋と違うねん。

 紙屋の後家はんでもないねや、糊屋のお婆んではもちろんないわ

●ほんだら、この町内に?

■お前や。

●えッ?

■お前やがな

●兄さん、そんなアホなこと

■オホなことあらへんねん、わいもびっくりしたんや。まぁそら、

 わけないこともないんやけどもな、お前に惚れて、さぁそんなこと口にも出せん。

 思い詰めて死んでしまおちゅなここのこっちゃがな。

 死ぬ気になってるで、あいつ。

 でや? お前、子どもの命が助けたかったら、いっぺんだけ「うん」と言ぅか?

●もぉ、そんなアホなこと言ぃなはんな、子ども相手にそんな。

 あれはわてのお腹痛めて生んだ子ども……

■さぁ、それが因果やがな。まぁ何ぞの因縁でこんなことになったんや。

 しゃ~ないがな、もぉしゃ~ない……、どないする?

●「どないする」て、兄さん。そんなアホなことができますかいな、考えてもみとぉくなはれ、わて……

■そらそぉや、お前な、

 亭主が死んでからズ~ッと後家を立て通して今日(こんにち)まできたんやけれども、

 そのお前、頼りにする育て上げた子どもが「死ぬ」ちゅうてんねやないかい。

 子どもの命を助けるためにやで、そら今まで操を守ってきたけれども、

 子どもの命に関わるこっちゃないかい。

 昔の常盤御前ちゅう人は、子どもの命助けるために操を破って操を立てた。

●それとこれとは話が違いまんがな。

 そんなこと言ぃなはるけどなぁ、あんた、

 考えてみとくなはれ、そんなことができるか……、

 いや、そら死なれたら困りますけど、

 そらわてかて。そぉかてあんた、

 どぉ考えたって……、え?

 うん……、それでもあんた、よぉそんな……、いえ、あの、うん……、

 そらまぁ、黙ってりゃ分からんことかも知れまへんけどあんた……、え?

●うん……、うん……、ほたら……、いっぺんだけだっせ

■承知してくれたか、あ~ッ、ホンマに冷や汗かいた。

 ちょっと待ってや、ほんならあいつのとこ言ぅてくるさかいな……

■ちょっと、おい作ぼん

▲おっさん、最前はえらいすんまへん。

 もぉ最前の話は聞かなんだことやと思て、どぉぞ忘れとぉくれやす。

 あしたあたり、わたし死にまっさかい、わたしの亡いあとはどぉぞお母んを……

■ちょっと待ち。それがな、今お母はんに言ぅたんや、もぉ思い切って。

■ほたらな、いっぺんだけ……、そのかわりいっぺんだけ、あきらめてや。

 それで元気出してや。

 とにかく、今晩お母んのとこへ忍んで行き。

 そぉいぅことにしてきたさかい。

 えぇか、もぉあとは内らのこっちゃ、もぉえぇよぉにしぃな、もぉわい帰るさかい……

 びっしょり汗をかいて、おっさん、逃げるよぉに帰ってしまいます。

 息子のほぉはさぁ元気が出たといぅか、

 恥ずかしぃといぅか、どぉしてえぇねやら分からん。

 まぁとにかく長いこと風呂にも入ってない、表へ飛び出して風呂屋へ入って、

 床屋へ回って、艶々と綺麗ぇな前髪を結い上げますと、

 どこでどぉ何を手回したのか、

 大きな風呂敷包みを背中に負ぉて家へ飛んで帰って来る。

 恥ずかしぃもんでっさかい、

 母親に声もかけずに二階へ上がったきり降りて来ん。

 日が暮れます。

 お母さんのほぉはもぉなんとも言えん気持ちでんなぁ。

 亭主が死んで八年間、ズ~ッと守ってきた操。

 八年ぶりの相手が自分の子ども。

 箪笥の一番ぁ~ん下から何年ぶりかの長襦袢を取り出してきて、

 鏡台の前へ座る。

 薄化粧。

 まぁ因縁と思て諦めなしょ~がないが、一体どぉいぅことになるのか知らん……、

 用意はできたけど、まだ降りて来ぇへんが、ホンマによぉ降りて来るのかしら? 

 待ちくたびれてキセルを取り上げて一服、また一服。

 「こんな気になってんのに、あの子来なんだら、またよけ困るがな、どないしてんねやろ?」

 キセルを投げ出しますと、階段の下へ行って、

●これ、どないしてんねやな? 作ぼん、お母はん待ってまんねやがな。

 これ、作次郎、作ぼん……、降りといなはれ。

▲ははッ、母人(ははびと)それへ、あッ、参るでござろぉ~ッ!

 ヒョイッと見ますと、金襴(きんらん)の裃、長袴。

 前髪がよぉ映って武田勝頼か十次郎のよぉな格好をしてる。

 母親の前へ手をつかえて、

▲はは~ッ!

●びっくりするやないかいな。この子何ちゅう格好してくるんや、

 金襴の裃着たりして? 

 こんなことするのに、そんな格好が要るかいな。

 お母ん見てみなはれ、長襦袢の下何にもあれへんやないの。

 どないしたんこんなもん? え? 

 衣装屋で、借ってきた? 

 アホかいな。何でこんな格好してきたんや?


【さげ】
▲でもお母はん「故郷へは錦を飾れ」と言ぃます。

 

 

     

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