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【ゆらしゃるか】
さぁ、七つ目の幕が開きました。七段目といぅのは茶屋場で、忠臣蔵で一
番華やかな舞台面(ぶたいづら)ですなぁ。お軽やとか仲居さんが大勢出てく
るし、目ん無い千鳥で由良之助が踊ったりしてます。
であの、力弥が密書を持って来る。吊り行灯(あんどん)の明かりでこれを
読んでると、お軽が二階で延べ鏡ちゅうんで、鏡で映してこれ読んでまんね
やが、考えたら理屈に合わん話で、吊り行灯の明かりでやっと読めるやつを
二階から鏡に映して読める道理がないと思うねやが。
また、その縁の下には九太夫が垂れ下がってきた手紙の端を読んでまんね
ん、眼鏡かけて。あんな真っ暗なとこでどないして読むのか、そこら芝居の
面白いところで。
密書を見られた、といぅので由良之助がお軽に「下へ降りて来い」向こぉ
から回ったんではまた仲居に見つかって酒呑まされるさかいっちゅうんで、
梯子をかけてそっから降ろす。
「船に乗ったよぉで、恐いわいなぁ」てな、可愛らしぃことをお軽が言ぃ
ます。と、由良之助が下から「船魂さまが見ゆるわ見ゆるわ。土手の秋の月
を拝みたてまつる。じゃ」
難しぃ言葉で言ぅてるさかい、あの浄瑠璃の文句てな上品なよぉに聞こえ
ますけど、はっきり言ぅたら「下から、覗いて見えてるぞ」てなこと言ぅて
るのんとおんなじこってんねん、あれ。
でまぁ「逆縁ながらと抱き降ろし……」といぅ、床の浄瑠璃の文句ですが、
あれも説明してもらうと「逆縁ながら」といぅのは女ごはんをこの、後ろの
ほぉからすることを言ぅねやそぉで、エゲツナイ言葉でんねやであれ、考え
てみたらね。
しかし、あの茶屋場といぅのは面白いもんで、これに因んだ落語もいろい
ろございますが、地震と雷が散財したっちゅう噺がある。
下の座敷で地震がドンチャン騒ぎやってる。二階のほぉでは雷が騒いでる。
雷が「ひとつ雷踊りをやろぉ」と言ぅと、ピカピカ、ゴロゴロと稲妻が走っ
たりする。下で地震が「揺ら揺ら踊りをやろぉ」と踊りだすと、家がユラユ
ラとこぉ揺れる。
上と下とであんまり騒がしぃ「いったい下には、どんなやつが来てんねや
ろ?」と、雷がこぉ上から覗く。下から地震が「上には誰が来てんねやろ?」
と、こぉ見上げる顔と顔「そこにいるのは、落ちゃるじゃないか?」「ゆら
しゃるか?」
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