『蟹 と 行 者』
【主な登場人物】
女の方 宿の亭主 行者 蟹
【事の成り行き】
この~「出物、腫れ物、ところ嫌わず」と言ぃますが、
おしっこが溜まるといぅのはなかなか辛いもんでね、
あのおしっこの溜まったやつを変に辛抱すると、
膀胱炎になったりしますんで難しぃもんがありますけれども。
女の方でもそぉなんですなぁ、男と女と比べると、女の方のほぉが我慢しにくいんですてね。
といぅのが、水道の蛇口が男はちょっとばかり長ごございますから、
どぉしても我慢できんときは輪ゴムではめるとかですね、
紙縒り(こより)で括るとか、何とか方法があるんですけど。
女性の場合はそぉいぅわけにいかんのんで、
こないだ洗濯(せんだく)バサミで挟んでる人がありましたけれども、
限界がきたときに洗濯バサミがポ~ンと向こぉへ飛んで、プシュ~ッと……、
大騒ぎになったことがありますですが。
女の方といぅのは我慢ができないもんで、
ちょ~ど、海岸べりを、波打ち際を歩いてた女の方がどぉしても我慢ができんよぉなって
「この辺なら人目につかんやろ」岩陰へ入りまして小用(こよぉ)を足した。
終わったらさっさとあっち行ったらよかったんですけれども、
終わってからふと気が付いた、紙がない。
●あ~ぁ、えらいことした。紙、確かめてからしたらよかってんわ。
どないしょ~、天日で干すわけにもいけへんし……
と、用を足したあと「あぁしょ~か、こぉしょ~か」
思案に暮れてるとこへ出て来よったんが一匹の蟹。
この蟹がゴソゴソ、
ゴソゴソ這ぉて来てヒョッと見ると何や妙なもんがある
「トリガイかいなぁ? アカガイかいなぁ? 何やこの中、チョンガッタとこがあるがな、
このチョンガッタとこ美味しそぉやなぁ」
蟹がチョンとチョンガッタとこをハサミで、
●あッ、こんなとこ蟹がハサミで……
飛び上がったんですけども「振り放されてはいかん」といぅので、
蟹がよけぉのことしがみ付くもんですから、
もぉ飛ぼぉが跳ねよぉが離れん。
しょ~がないさかい、そのまま前を合わしまして宿屋へ飛び込んだ。
●あの、すみません。この辺にお医者は?
▲この村にはなぁ、宿はあるがお医者さまはねぇでなぁ
●どないしましょ? 実はあの、恥ずかしながらこれこれ、これこれ、こぉいぅわけ。
▲へッ、蟹が喰らい付いてるだが、蟹が? あ~、お医者さまいねぇがなぁ、
行者さまならござらっしゃるがなぁ。
行者さまに拝んでもろぉたら、蟹が離れるのではなかろぉかなぁ
●でわ ひとつ、その行者さま是非お願いいたします。
行者、頼まれて来たもんでっさかいに、何なとせな都合が悪い。
■あ~いやいや、拝むのはいと容易い(たやすい)ことでござるが、
その蟹が挟んでいるところを確かめんことには拝みよぉがないで、
その挟んでいるところを見せてもらいたい
●まぁ、そんなとこ見な拝まれへん?
■見ずに拝むときは験(げん)が薄いでな、是非見せていただきたい……
■お~、なるほどえらいところに喰らい付いておりまするな、
これわこれわ。
まぁ、拝んでみましょ~かなぁ
「おんあぼきゃ~べぇ~ろ、しゃの~まかぼだら、まにはんどまじんばらはらばりたやうん。
おんあぼきゃ~べぇ~ろ、しゃの~まかぼだら、まにはんどまじんばらはらばりたや……」
●あの、そない近付いていただいたら、わたし……
■いえいえ、こぉいぅもんは近付かんとゲンがない
「おんあぼきゃ~べぇ~ろ、しゃの~まかぼだら、
まにはんどまじんばらはらばりたやうん。おんあぼきゃ~べぇ~ろ……
言ぃながら、段々だんだん近寄って来たん。
この行者が目が近かったんでっしゃろかなぁ、ほとんどもぉ擦り付けんばかりに来たもんで、
ところがまた蟹のほぉもこんなやつが覗きにくると思わんから
「何をしよんねん、このガキは」
片一方のハサミでチョンガッタとこをつまみ、片一方でこの行者の鼻をチョンと、
■あッ! これは大変、これはえらいことになった。
しかし、なかなかこの女性(にょしょ~)姿かたちは美しぃが、
その割にここは臭いぞ。
あぁ臭い痛い、
鼻が痛い臭い。
これ蟹よ、もぉ堪忍(かに)じゃ、堪忍じゃ、離してくれ。
離してくれ、離してくれ~ッ!
この蟹め、江戸っ子やったとみえて、
【さげ】
★離さねぇ~。