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慈善療法

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慈善療法

 

 ガニマール君は、どうかしたはずみに、意味もなく「オタンチン」という言葉を発する妙なクセがあった。

 家庭の中で発するぶんには、べつにどうということもないが、公衆の、それもお歴々の面前などで発すると、とんでもないことになる。

 ある日、とうとう権威ある舞踏会の席で、それがでてしまい、いっしょに踊っていた貴婦人のご機嫌をそんじ、大恥をかいた。

 ガニマール君は、すっかりくさってしまい、細君にすすめられて、医者のところへ相談にいった。

 「どうも、この病気は、薬ではなおりませんな。精神療法というやつでやりましょう。つまり、だんだんになおしていくというやりかたです。まず、あなたが、その妙な言葉を口にしたら、すぐポケットから百フランだして、手近かにいる乞食か何かにめぐんでやることですな」

 「うむ。そりゃいい、慈善療法というやつですね」
  ガニマール君は、さっそく、この療法をやることに決心した。

その日は、友だちのひとりが、結婚をすることになっていたので、教会へいった。
が、驚いたことには、中、からっぽで、若くて美しい掃除婦のほかには、
だれもいなかった。

 ガニマール君は、床をみがいている娘に近づいてきいた。
 「ドン君の結婚式が、今日、ここであるはずなんだが、きみはしらないかね」
 「あら、ドンさんの結婚式なら、昨日おすみでございますよ」

 「なんだって?昨日、すんだ。チェッ!このオタンチンめ!」
 そこで、はっと気づいて、あわてて百フラン取りだすと、その娘の手に握らせた。

 百フランを握らされた娘は、少なからずあわてた様子だったが、
ポッと頬をそめて、むこうの懺悔室の方を流し眼にみながら、
 「あそこでよろしゅうございまして?」

 

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