穴門の西瓜売り
【主な登場人物】
西瓜売り 客 八卦見
【事の成り行き】
西瓜の思い出というと小学校低学年の頃、大きな西瓜を半分に割って三歳
違いの弟とスプーンですくい食いというのが夏の定番オヤツでした。あの頃
いくらぐらいしてたのか知りませんけど、貧乏人の我が家でも丸のまま買え
るというほどですから、今ほど高くなかったはずです。
一人頭、四分の一個は多すぎますんで最後はいつも遊び半分グジュグジュ
に潰してストローでジュースだけ吸う。あんな青ぐさいもの今ならよぉ飲み
ません。風呂上がりに一切れ二切れ、サッパリといただくのが一番美味しい
西瓜でしょう。
けど、西瓜って冷蔵庫の場所ふさぎですねぇ(2000/08/20)。
* * * * *
●おい、西瓜切ってんか
■へッ、お越し
●西瓜切って欲しぃんじゃが、こらちょっと白いことないか?
■何おっしゃる。こらぜんぶ新田西瓜で種まで赤こございますんで、どぉぞおひとつ。
●あんた、売りもんやよってそぉ言ぅけども、わしゃ買うほぉや。買うほぉの身になったら、白いよぉに思うが……
■赤こおます
●白いなぁ
■赤こおますて
●「赤い、白い」言ぅててもしゃ~ないやないか
■ほなこぉしましょか、あそこに八卦見がおますよって見てもらいまひょか。
■八卦はん
▲何じゃな?
■えらいすんまへんねんけど、お客さんこの西瓜白いおっしゃるんで、赤いか白いかもめてまんねん
▲な~るほど
■で、ちょっと見てもらいたい
▲なになに、その西瓜が赤いか白いかを見るとな……、して、赤、白分かったあかつきには何とするな?
●よっしゃ、もしその西瓜が赤かったら、わしゃここにある西瓜、全部買ぉたるわ
■ほぉ、そらありがたい。赤かったら全部、買ぉてくれはる
●喜ぶんはまだ早い。もし白かったらどぉするんや?
■さぁ、白かったら。全部前の川に捨ててしまいましょか
●そらオモロイ。
■センセ、ひとつ赤いか白いか見とくなはれ
▲どれどれ……、外は青い。青いは即ち陰なり。陰は北にある、北は即ち水である。と、外は水じゃなぁ。
中は赤い、赤いは即ち陽であって、陽は南にあたる。これ即ち火性である。
水性と火性とで……、これを「水火」と言ぅのじゃ。
■へぇ?
●五行で見るといぅと……、相性が悪いなぁ……、困ったなぁ。とにかく論より証拠じゃ、切ったほぉが早やかろぉ
■何じゃいな。何のかんのと、切ったほぉが早やかろぉやと、ほな切るとしょ~か……
ズボッと切りますと、置き古しと見えまして西瓜がベタッとへたってしもて、棚が落ちてしもたぁる。
■センセ、棚落ちてしもてますわ。八卦もあてにならんなぁ……
【さげ】
▲こら、家相で見たほぉが良かったかなぁ。
【プロパティ】
穴門(あなもん・あなと)=南御堂(本願寺大谷派難波別院)を取り巻く石垣
の北西角にうがたれた洞窟状の通路を穴門と呼んだ。ひんやりと風通
しも良かったため、涼を求める人々や西瓜売りが集まり「穴門の西瓜」
が名物になったという。(現在、残っていません)
新田西瓜=九条ねぎ、九条なすと並ぶ九条村(現・西区九条)の特産品。新
田とは、寛政から江戸時代末・慶応まで続いた大阪湾沿岸の埋め立て
開発によって開かれた「川口新田」から。
棚が落ちる=棚落ち:スイカなど、成熟が進みすぎて空洞のできた状態。
音源:桂南天 昭和40年代中頃(1970) 京都九条たらちね会で録音
(古今東西噺家紳士録収録)
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