世界の都市をイラストで表現しようとするとき、必ず描かれるのはその町を代表する建築物です。ニューヨークならエンパイアステートビル、シドニーはオペラハウス、パリならエッフェル塔と凱旋門でしょう。
東京はどうでしょうか? 一昔前なら東京タワー、今はスカイツリーでしょうね。でもタワー類は、首都を代表する建築物として力不足は否めません。こうしてみると、シンボリックな建築物が都市の風格にとっていかに大切か分かります。
近年でも、北京オリンピックの際に建築された「鳥の巣」と呼ばれる競技場は、毎日、万単位の観光客が訪れる名所になっています。北京の建築物といえば、「虐殺」イメージのしみ込んだ天安門しかありませんでしたから、中国にとってこの競技場建設はいろんな意味で「大成功」でした。ちなみに、このスタジアムを設計したのはスイスのデザイン会社です。
何の話を始めたのかお分かりですね。このほど、政府は新国立競技場建設の基本方針を明らかにしました。当初の計画にあった開閉式の屋根、音楽イベントに使える環境、冷暖房装置等を全てやめ、収容人員を6万8000人に減らしています。この座席数では、国際公約になっている入場行進後の選手がスタンドに着席することと、中継機材、開会式イベント機材のスペースを考えると、有料入場者数は5万人を切りそうです。
しかも、公式の陸上競技大会を開催するのに必須なサブトラック建設は見送られ、それどころか、サッカーワールドカップ招致のためにはトラックを潰して客席を作る必要があるらしいです。そうなるとメインスタンドからピッチは相当遠くなります。実は例のザハ氏の設計案、客席から競技者までの距離がムッチャ近いのがウリだったんですがね。
一体、政府は1550億円もの金をかけて、代々木に何を作ろうとしているんでしょうか? 凡庸な建築家が、批判されないだけの「衆愚の殿堂」を作って建築費をドブに捨てる、そんな結果にならない事を私は心から願います。
一言付け加えるなら、歴史的建造物っていうのは芸術作品の側面がありますから、初めから万人受けはしないものです。太陽の塔を見てると分かりますよね。((株)大阪綜合研究所代表・辛坊 治郎)
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