日本の鉄道の総延長約2万キロのうち、電車が走れる区間は約6割。残りは電気を使わないディーゼルカー(気動車)が主役だが、JR東日本は“非電化区間も走れる電車”を昨年導入した。それが、栃木県内の烏山線(宝積寺-烏山)を走る日本初の蓄電池駆動電車「EV-E301系」。大容量のリチウムイオン電池を使って走る仕組みで、CO2(二酸化炭素)排出量を従来の気動車より約60%削減できるだけでなく、メンテナンスの手間も少ない。将来は非電化ローカル線の主力に育つ可能性を秘めている。
バッテリーの高性能化で実現
「蓄電池(バッテリー)にためた電気で電車を走らせるという、アイデア自体は新しくない」と解説するのは、JR東日本車両技術センターの担当者。ただ、重い車両を動かすのに十分な性能を持つバッテリーが存在しなかった。
しかし近年、ハイブリッド自動車や家庭用蓄電池の普及に伴って、従来より小型で蓄電容量が大きいバッテリーを調達できるようになり、鉄道車両に活用する上で追い風となっている。
そこでまず2010年に技術検証用の「クモヤE995型」を開発、その実験結果を反映させたのが昨年3月に営業運転を始めたEV-E301系だ。烏山線に2両1編成が配備され、1日14往復のうち3往復がこの車両で運行されている。
終着駅の烏山駅構内には大電流に耐える頑丈な「剛体架線」を設けており、その下でパンタグラフを上げて急速充電する。その電力で宝積寺駅まで非電化の約20キロを走行。さらに電化区間の東北本線宇都宮駅まで直通運転する間、走りながら充電する仕組みだ。
開発で苦労したのは「かさばるバッテリーをどう積み込むか」(担当者)だったという。試験車両では車内に設置したが、「発熱の可能性のあるバッテリーを客室内には置けない」(同)。そこで、危険のないブレーキ制御装置を車内に移し、床下にバッテリーの収容スペースを捻出した。また走行に十分な電力量を確保するため、2両固定編成とした。
そのため、気動車のキハ40系を3両編成で運行している朝のラッシュ時には対応できず、EV-E301系が走るのは主に日中だ。
走行が日中に限られるものの、蓄電池駆動電車は気動車と異なって排ガスがなく、騒音も小さい。部品点数が少なく、メンテナンスの負担が軽いのも大きな利点だ。
馬力とスタミナに課題も
もともと鉄道は、輸送機関の中でも環境に与える負荷が小さい。日本全体の旅客輸送のうち約30%、貨物輸送で約4%を担っているが、CO2排出量は輸送機関の約4%に過ぎない。それをさらに減らす取り組みを、JR東日本は続けてきた。
たとえば2005年、営業用として世界で初めて小海線(小淵沢-小諸)に投入した「ハイブリッド気動車」。ディーゼルエンジンで発電し、バッテリーに蓄えた電力でモーターを動かして走る構造で、ブレーキ時には逆にモーターで電気を起こして充電できる。
一方、EV-E301系は「フル充電、平坦路線、無停止で約50キロの走行が可能」という性能にとどまるため、小海線のような山岳路線や長距離の運転には向かない。だが、電化区間に直通運転して充電時間を稼げる路線なら都合が良い。まず烏山線に配備されたのはそうした条件が合致していたからだ。
ローカル線の電化は費用対効果で割に合わないが、EV-E301系の導入費用は充電設備と2両1編成を合わせ18億円。車両価格は量産すれば安くなる。JR東日本は将来的に烏山線の全車両を入れ替える方向で改良点などを調査しており、路線条件が似た秋田県の男鹿線(追分-男鹿)にも投入するとみられる。
蓄電池駆動電車をめぐっては、JR九州も2016年秋から福岡県の筑豊線(若松-原田)の一部で走らせる計画。バッテリーの性能が向上していけば、活躍の舞台は日本全国のローカル線へと広がるかもしれない。(山沢義徳)
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