〝爆買い特需〟宿泊業界ピリピリ
市販の殺虫剤が効かない南京虫(トコジラミ)、いわゆる「スーパー南京虫」の被害が、昨今の訪日外国人の増加と比例して全国的に拡大している。南京虫は吸血性の昆虫で、被害に遭えば「強烈なかゆさで一睡もできない」ほど。インターネット上ではこうした報告があるたびに、「どうしたらいいのか」などと困惑する声も上がっている。“爆買い特需”にわく宿泊業界も対策に神経をとがらせるが、スーパー南京虫の増殖を逆にビジネスチャンスととらえる企業も現れている。(吉村剛史)
上海の高級ホテルで“眠れない夜”
「夜中にかゆみを感じて起きたら、南京虫に何カ所も刺されていて、ぷっくりとはれ上がっていた。フロントにクレームをつけた」
昨年夏、上海へ出張した際に南京虫の被害にあったという関東在住の40代の男性ビジネスマンはこう振り返る。
この男性が“眠れない夜”を過ごしたのは、バックパッカー向けの安宿ではない。同地の浦東地区にある世界的に知られる5つ星の高級ホテルでの話だ。
男性によると、ホテルにチェックインした際に、ベッドのシーツがザラザラで違和感があったという。「ホテルの格を考えたら、出入りのクリーニング業者が持ち込んだのかもしれない」とこの男性は指摘する。その後、出張先のホテルでは、神経質なまでにベッド周辺を事前に確認するようになった。
南京虫は、日本では約40年前に制圧されたはずだった。しかし、ここ数年の訪日外国人の増加に比例して、大阪、東京をはじめ全国の保健所への相談件数が急増。大繁殖の兆しを見せていることから、宿泊施設をはじめとした関係各所は警戒感を強めている。
大阪府内のホテル経営幹部は、「南京虫の駆除では何度も業者を呼んでいる」と実情を明かす。このホテルでは、中国を中心に東南アジアなどからの宿泊客が多く、南京虫の発生頻度は「その増加に比例して高くなってきた」という。
南京虫は昼間は物陰など暗い場所に隠れてしまうため、入念な清掃を心がけていても発見は困難で、「結局、宿泊客から被害の訴えがあり次第、業者を呼んでいるのが実情です」とこの幹部は説明する。
そのうえで、「急増する宿泊需要に応じていくのも業界の使命。南京虫問題とも向き合うしかない。客室の稼働率アップによる増益とその“副作用”による支出配分は、とても悩ましい問題です」と頭を抱える。
ビジネスチャンスに米国の最新技術導入
専門家によると、スーパー南京虫の駆除は一般家庭では非常に難しいとされる。
最近、先進国で増殖しているスーパー南京虫は、市販のピレスロイド系殺虫剤に耐性を持っている。高熱の蒸気などで処理するか、業者用の有機リン系液剤で駆除するかが有効な対処法だが、いずれも業者に頼らざるを得ないのが実情だ。
そんななか、スーパー南京虫の増殖を新たなビジネスチャンスととらえ、新たな防除技術を導入して強化する企業も現れた。
清掃などとともに、害虫獣駆除サービスなども行っている「ダスキン」(大阪府吹田市)は、平成25年から南京虫対策を前面に打ち出したサービスに乗り出している。同社は、日本よりも先にスーパー南京虫の被害が拡大した米国へ研修スタッフを派遣。提携している米国の有名害虫駆除サービス提供会社「ターミニックス」を通じて、先進の防除技術などを導入した。
吸引機械や冷却材(スノードライアイス)の噴霧機材を導入で住民の健康への影響に配慮し、部屋の調度品を傷めないように配慮。このほかにも、有機リン系殺虫剤による防除も行っており、駆除実績はまさに“倍々ゲーム”で飛躍的な伸びだという。約9割が薬剤抵抗性種(スーパー南京虫)の駆除依頼だ。
相談を寄せてくるのは、ホテルや旅館、一般家庭をはじめ大きな病院からもある。同社広報担当者は「全国にサービス拠点を持つ強みから、今後は駆除後の定期点検も含め、この分野のサービスをさらに充実させたい」と話している。
荷物、スーツケースに潜む?
一般社団法人大阪府ペストコントロール協会の曽谷久嗣副会長は「何よりも、スーパー南京虫を家に持ち帰らないことが重要」と指摘する。特に海外旅行や出張でホテルなどの宿泊機関を利用した際は、「スーツケースの内外を、特に念入りにチェックした方がいい」と話している。
スーパー南京虫は、成虫で体長5~8ミリ。スーツケースの車輪のすき間などに潜んで旅行者と一緒に行動したり、衣類や別送品の箱などに着いて持ち込まれる可能性が否定できない。
調査研究やコンサルティングを展開する国際戦略デザイン研究所の林志行CEOは、自らも過去にアジア圏での出張で南京虫の被害に遭った経験から、「海外のホテルの部屋では、直接、スーツケースを床などに置かないよう注意する」と話す。南京虫対策として備え付けの専用ラックを使用することを習慣にした。
さらに、危機管理の視点からも「ホテル外のレストランで食事する場合や、タクシーで移動する際にも細心の注意が必要」とアドバイスを送る。
業者向け駆除剤にも力を入れる大手殺虫剤メーカー、大日本除虫菊(KINCHO、大阪市)によると、室内でスーパー南京虫が発生すると、部屋の隅やベッドの裏などに南京虫特有の糞「血糞(吸血した人血に由来する黒い糞)」が見つかるという。同社は「そんな染みを見つけたら、保健所や駆除業者に連絡し、被害拡大を防いでほしい」と呼びかけている。
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