【反故(ほご)染め】
百人一首といぅものが今でもなかなか盛んですなぁ、
一時はもぉずいぶん廃れるかと思いましたが、
やはりお正月の付きもんになってますよぉで。
この噺は若ぁ~い舞妓はんかなんかと、
置屋の女将さんとの対話とでも思て聞ぃていただきましたら結構なんですが。
▲ちょっと
●へぇ
▲ちょっとこっちおいなはれ、あんたの誂えてた長襦袢が染め上がってきたんや。
やっぱり京染めやなぁ、えぇ色に上がってるわ
●嬉しぃわぁお母ちゃん、早よ着てみたいわ
▲かめへんがな、ここで着てみなはれ。
かめへんかめへん、誰もおれへんし、脱いで着替え……
▲んまぁ~ッ、えぇやないか。
いぃえぇな、だいたいあんたの趣向がえぇねや、
染め屋はんかて感心してはったえ、
あの百人一首の反故(ほぉぐ)染めやなんて。
まぁほんまにズ~ッと体中に百人一首の文句が散らしになってて、
仁左衛門みたいなやないか。
▲ちょっと文句読ましとぉ……、
胸のところが「こいぞつもりてふちとなりぬる」まぁ~ッ、
誂えたよぉでえぇ文句がここへきてるなぁ。
袖のところが「わがころもではつゆにぬれつつ」ピッタリやわぁ。
▲いっぺん後ろ姿見して、あっち向いて……、
肩のところが「みかさのやまにいでしつきかも」
まぁ~、よけあんたの肩がスッキリと見えるがな。
オイドのところが「けふここのへににほひぬるかな」
●嫌いやわぁお母ちゃん、何で?
▲何でそんなことになったんやろなぁ
「ここのへ」やみな本字で書いといてもぉたらえぇのに、
かなで書くさかいややこしことになんねやがな……、
まぁまぁ、もぉいっぺんこっち向いてごらん。
▲え~、上前(うわまえ)が「あふさかやまのさねかずら」
●嫌いッ! こんなんよぉ着んわ
▲何でそんなことになって……、
ちょっと待ってみなはれ、
下前(したまえ)は……
と、めくってみますと「ひとこそしらねかわくまもなし」
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